1日1ページ手帳をやめて2年近くたつけど、日々を記録したいという気持ちは消えない。
そもそも心配症と記録の相性が良いことに気づいたのは、母が73歳で旅立ち、ワタシは50歳を迎えたころだった。
日常の色んなできごとや漠然とした不安を、ズラズラ書くことで解消しようとした。
ひと月分が見開きページで確認でき、続く月火水木金土日分が2ページで見渡せるタイプの一般的なレイアウトの手帳からはじまり、年々書く項目が増え、
2014年頃からついに1日1ページ手帳になり2021年まで続いた。
手帳だったらなんでもよいわけではなかった。こだわったのは、罫線、フォント使い、レイアウトの各ページの完成度だった。
表紙だけ見ると目を引くキャラクターモノや、斬新な色使いとデザインの手帳でもページを開くと、段違いに手抜きレイアウトの手帳が多い。
そんななか、ラコニック、モーレスキン、高橋、NOLTY、EDiTなど、自分的にレイアウトが馴染んでしっくりくる手帳を使ってきた。
手帳でありながら書くページをないがしろにしている製品は、開いたとたんガッカリする。
しかし、1日1ページにあらゆることを9年位書いてわかったのは、書いても心配事はなくなのらない、だった。
そこで2022年から、再び、月間ブロックと見開き1週間タイプに戻った。結局、思いつく限り記録しようが、記録しまいが、子供の頃からの心配癖は消えないのだ。
左が高橋のtrinco一日1ページ、右が高橋のT’ファミリー手帳。
それならば、記録に縛られるより、心配性ながらも行き当たりばったり的な若い時代のやり方が、カッコいい、という思いが、再び1日1ページに向かわせるのをとどまらせた。
すこし前のことになるが、親子ほど年下の若い男の子が「電車で手帳開いてチェックしている人、カッコ悪っ!」と何気なく漏らしたことがあった。
良い悪い、じゃない。感じ方なのだ。万全の体制をとるべく詳細に記録するよりは、その場その場に集中し、一瞬一瞬を味わうイメージの方が、普通はカッコいい、とされるものなのだ。
そういえば、モードの世界にしても、最近「エフォートレス」という言葉をそこここで目にするようになった。
肩の力の抜けた、気負わない感じ、を意味する言葉だと思うけれど、一番わかりやすい例は、今年亡くなったジェーン・バーキンだ。
いつ見てもシャツやセータにジーンズ、カーゴパンツをすごーく無造作に着ていて、年齢が上がるにつれてしわやたるみの目立つ顔や体になろうとも、ありのままが美しい、をカラダを張ってメディアを通して表現した人生だった。
そういうことを、あれこれ妄想しながら、銀座を歩いていたら、和光のある銀座4丁目交差点の目と鼻の先にあるGUCCIのビルの前を通りかかった。
とたんに、グッチのホースビットローファーがぽっかり頭に浮かんでしまった。
無印洗いざらしシャツとGAPの膝丈デニムスカート、1500円のかごバックの出で立ちでうっかり店内に入ったのだった。
入口で、二人のグッチの女性スタッフから、にこやかに何かお探しですか、と聞かれた。
「ローファーが見たいんです」と図々しくも宣言する、とても買いそうにもない安っぽいスタイルのワタシに、
「かしこまりました。レディースでございますね、ではまずレディースの階にご案内します」
と、女性スタッフのひとりが、奥のエレベーターに導き、靴フロアに連れていってくださった。その際、わたしが履いていたガラスレザーのリーガルローファーに目をやり
今履いていらっしゃるローファーすてきですねぇーと褒めてくださった、さすがである。
はたして、グッチのホースビットローファーの履き心地は素晴らしかった。試着したのは、細身なシルエットの新定番「ヨルダーン」だ。
元々、馬の口にはめるくつわであるホースビットを模した金具をローファーにあしらった、ホースビットローファーは、1953年にグッチから誕生した。
いっぽう、素足にフットカバー付きでダークレッドのメンズリーガルローファーを履いているわたしである。
ビジネスマンが時々履いているのを見かけるテッカテッカのガラスレザーのリーガルローファー、は、手持ちの靴の中で一番高かった、約27000円。
無印シャツ+膝丈GAPデニスカ、ビニール籠バッグのなか、一点豪華主義のつもりが、グッチブランドの世界観を体現した店内では、なぜか成金ぽく見える哀しさよ。
ところで、試着したグッチのホースビットローファーのホースビットの部分は、想像してたより控えめな鈍いゴールドで、
薄いソールと最小限の高さのヒール、細長いつま先部分と相まって無駄が全くない。
地面に吸い付くような感触で全くストレスを感じさせない。ローファーのつま先が実際のつま先より、若干長くデザインされている。
ひたすら地面にすいつくような浅く細長いフォルム、made in Italyの底力を感じた。履いてたGAPの膝丈デニムスカートと素足にマッチしてうっとりした。
クワイエットラグジュアリー(静かで目立たないラグジュアリー)エフォートレス、と、流行りのファッション用語が即座に思いついたのであった。
「ところでいくらですか?」とぶしつけな質問をする。
「12万いくらいくらでございます」
高いか安いか、決めるのは結局のところ個人の判断だ。